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クリックケミストリー関連特集

本特集は、生体直交化学、細胞ラベリング、医薬品合成、機能性分子合成の研究に携わる方にお役立ちいただける情報を掲載しております。 関東化学では、クリック反応に用いられる試薬を取り揃えております。製品の詳細情報につきましては各製品のカタログもしくは製品ページをご覧ください。

クリックケミストリーとは

クリックケミストリー(click chemistry)とは、簡単かつ安定な結合を作る反応を用いて、複雑な機能性分子を合成するという合成化学の一分野です。

  • ・高収率かつ高い官能基選択性(目的の官能基のみと反応し、副反応を起こさない)
  • ・アジドの入手やアジ化による原料の合成が容易
  • ・熱力学的に不可逆な反応(より安定な結合・物質を作る)
  • ・精製が簡便
  • ・水中やバッファー中など、様々な条件で反応可能

などの特長があります。
この反応を利用することで、ペプチドや糖など複雑な分子どうしの連結を簡単に行うことが可能となります。

クリック反応について

クリックケミストリーの代表的な例として、アジド(N=N+=N-を持つ化合物)と環状アルキンの[3+2]付加環化反応により1,2,3-トリアゾール類を一段階で合成する反応は「クリック反応」と呼ばれています。
クリック反応は、複雑で多段階の合成を必要とせず、簡単に目的の化合物が高収率で得られる便利な反応です。(また、たとえ生体分子などの複雑な化合物であっても、目的の官能基のみと不可逆的な反応を起こし、副生成物を生じないために、精製が簡便という利点も持っています。) 生成物である1,2,3-トリアゾール類は医薬品に含まれる構造であることや、水中や常圧など生体内に近い条件での反応が可能であることから、生体直交化学への応用が進められています。

※生体直交化学:生体分子への影響や生化学的プロセスへの干渉を最小限に抑えながら、生物学的環境で発生させる一連の反応(=生体内で必要な条件(温度、pH、圧力、共存分子など)のもと行う反応)

クリック反応と生体直交化学の組み合わせにより、これまでタンパク質や脂質でのみ発生すると考えられていた糖鎖付加が、新たにRNAでも起こることが発見されました1)。糖鎖付加は、通常細胞膜の合成やタンパク質への機能付加など重要な役割を担っており、RNAについてもどのような役割を果たしているのか、現在調査が進められています。
このような成果もあり、2022年のノーベル化学賞は「クリックケミストリーと生体直交化学」について与えられました。現在注目を集めている分野です。

クリック反応の歴史

1961年、Rolf Huisgenらによってヘテロ原子含有双極子とアルキンもしくはアルケン間で進行する[3+2]双極子付加環化反応が開発されました(ヒュスゲン双極子付加環化反応)2)。しかし、本反応は高温・長時間の条件が必要であることが課題でした。

2002年にSharpless3)やMeldal4)らによって、銅触媒存在下、末端アルキンを原料とした時に温和な条件かつ高効率に目的物が得られることが発表されました。本反応は上記の反応に比べて遥かに簡便な手法でしたが、生体内での利用においては、高濃度の銅触媒の持つ毒性により、難しい反応でした。

そこで銅触媒を使わない条件として、2004年にBentozziらはアルキニル基の歪みを利用して、無触媒条件下、アジドと環状アルキン間で進行する付加環化反応条件を開発しました5)。本反応は高い官能基選択性(生体内のチオールなどと副反応を起こさない)ことや水中での反応が可能であることから、生体直交化学への応用が可能となりました。

クリック反応の利用

蛍光色素による生体分子へのマーキングや、医薬品の素早いスクリーニング評価に利用されており、生物細胞の解明や、より効果の高い医薬品の研究へと繋がっています。生物分野以外でも、機能性分子の合成への応用についても研究が行われています。

試験研究用試薬

無触媒(Cuフリー)クリック反応素子

関東化学では、九州大学・先導物質科学研究所の友岡・井川(現 熊本大学)・河崎らによって開発されたクリック反応素子であるDACN(4,8-diazacyclononyne)およびその誘導体を販売しております。本製品のような環状アルキンを用いることで、生体内で毒となる銅触媒を使用しないクリック反応が行えるため、生体直交化学の検討にご利用いただけます。
また、本製品DACNは、環状アルキンの中でも良好なクリック反応性を持ちながら、熱安定性も高く、保存や取り扱い中の分解を防ぎます。また、チオールに対しての反応性も十分低いため、生体内に存在しうるシステインやグルタチオンとの副反応も防ぎます。

  OCT DACN DBCO
構造式
反応性
(反応速度定数)
低い
(2.4×10-3/M・s)
良好
(5.5×10-3/M・s)
高いが、チオールとも反応
(310×10-3/M・s)
安定性 高い 高い 低い(熱分解)

銅触媒存在下クリック反応試薬

銅触媒の存在下では、末端アルキンとアジドによるクリック反応が高効率に進行します。関東化学では、本反応に利用可能な末端アルキンおよび銅触媒を販売しております。機能性分子などの合成化学にご利用いただけます。

アジド前駆体

クリック反応のもう一つの原料として、アジドが挙げられます。弊社では誘導化のための前駆体を販売しております。

参照

1) Ryan A Flynn, Kayvon Pedram, Stacy A Malaker, Pedro J Batista, Benjamin A H Smith, Alex G Johnson, Benson M George, Karim Majzoub, Peter W Villalta, Jan E Carette, Carolyn R Bertozzi. Cell. 2021, 184, 3109-3124.
2) Rolf. Huisgen. Proc. Chem. Soc., 1961, 357-396.
3) Vsevolod V. Rostovtsev, Luke G. Green, Valery V. Fokin, K. Barry Sharpless. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 2596-2599.
4) Christian W. Tornøe, Caspar Christensen and Morten Meldal. J. Org. Chem. 2002, 67, 9, 3057–3064.
5) Nicholas J. Agard, Jennifer A. Prescher and Carolyn R. Bertozzi. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 46, 15046–15047.